大阪地方裁判所 昭和43年(わ)684号 判決 1980年3月07日
本店
大阪市南区宗右衛門町二四番地
商号
有限会社 クラブ・ビーエンドビー
右代表者
清算人 池口麗子
本籍
神奈川県横浜市中区海岸通二丁目八番地
住居
東京都港区南青山二丁目二七-一九ABCビル
会社役員
旧姓谷本こと池口麗子
昭和一〇年三月二七日生
右有限会社クラブ・ビーエンドビーに対する法人税法違反、池口麗子に対する法人税法違反、所得税法違反各被告事件につき、当裁判所は検察官上野富司出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人有限会社クラブ・ビーエンドビーを罰金三〇〇万円に、被告人池口麗子を罰金六〇〇万円に各処する。
被告人池口麗子においてその罰金を完納することができないときは、金二万円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。
訴訟費用中、証人本山和博、同藤田貞次郎、同倉山邦男に支給した分はその二分の一を被告人両名の連帯負担とし、その余の各証人に支給した分はその二分の一を被告人池口麗子の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
第一 被告人有限会社クラブ・ビーエンドビーは、東京都新宿区西大久保一丁目四三九番地にもと本店を置き、キヤバレー営業をしていたもの、被告人池口麗子は、被告人有限会社クラブ・ビーエンドビーの従業者であって、その営業経理一切の業務を総括掌理していたものであるが、被告人池口麗子は、被告人有限会社クラブ・ビーエンドビーの業務に関し、法人税を免れようと企て、
一 被告人有限会社クラブ・ビーエンドビーの昭和三九年二月一日から昭和四〇年一月三一日までの事業年度において、所得金額が一二、二四四、四六七円、これに対する法人税額が四、五〇二、七二〇円であるのに拘わらず、公表経理上、売上収入金の一部を除外しこれによって得た資金を仮名預金口座に預入して秘匿する等の不正行為により、右所得金額の全額を秘匿した上、法人税確定申告期限後である昭和四〇年六月一一日、東京都新宿区淀橋税務署において、同署長に対し、右事業年度分の所得金額が欠損二〇一、三四六円で納付すべき法人税額は無い旨、虚偽の法人税確定申告書を提出し、よって、同年度分の法人税四、五〇二、七二〇円を免れ、
二 被告人有限会社クラブ・ビーエンドビーの昭和四〇年二月一日から昭和四一年一月三一日までの事業年度において、所得金額が一〇、七八二、七五九円、これに対する法人税額が三、八〇九、三四〇円であるのに拘わらず、前同様の不正行為により、右所得金額の全額を秘匿した上、昭和四一年三月三一日、前記淀橋税務署において、同署長に対し、右事業年度分の所得金額が欠損二三、六一三円で納付すべき法人税額は無い旨、虚偽の法人税確定申告書を提出し、よって同年度分の法人税三、八〇九、三四〇円を免れ、
第二 被告人池口麗子は、大阪市北区堂島上通二丁目五一番地等において、バー、クラブ等を個人経営していたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、
一 昭和三九年度における所得金額は、一〇、二六六、九〇八円、これに対する所得税額は四、二二九、九五〇円であるにも拘わらず、正規の会計帳簿を記載せず、売上収入金の一部を仮名預金口座に分散預入して秘匿し、営業名義を従業員の名義として自己の営業でないように仮装する等の不正行為により、右所得を秘匿した上、右所得税申告期限である昭和四〇年三月一五日までに所得税確定申告書を所轄税務署長に提出せず、よって、同年度分の所得税四、二二九、九五〇円を免れ、
二 昭和四〇年度における所得金額は、四、三二四、四三四円、これに対する所得税額は、一、三三六、二〇〇円であるにも拘わらず、前同様の不正行為により、右所得を秘匿した上、右所得税申告期限である昭和四一年三月一五日までに所得税確定申告書を所轄税務署長に提出せず、よって、同年度分の所得税一、三三六、二〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示第一、第二の事実につき
一 被告人池口の昭和四三年二月一九日付検察官に対する供述調書
一 被告人池口作成の昭和四一年八月一九日付上申書
一 検察官及び弁護人作成の昭和五五年一月二八日付合意書及び同年二月一五日付確認書
一 第五五回公判調書中の証人藤田貞次郎の供述部分
一 証人本山和博に対する裁判所の尋問調書七通
一 証人倉山邦男の当公判廷における供述
一 倉山邦男、谷本教子の検察官に対する各供述調書
一 押収してある有限会社クラブ・ビーエンドビーの昭和40・1・31期法人税額確定申告書一綴(昭和四七年押第二三四号の四)、有限会社クラブ・ビーエンドビーの昭和41・1・31期法人税確定申告書(同号の五)
判示第一の事実につき、
一 被告人池口に対する昭和四一年九月一二日付、同年一〇月二六日付、同月二七日付収税官吏の各質問てん末書
一 被告人池口の昭和四三年二月二一日付検察官に対する供述調書
一 収税官吏本山和博作成の昭和四二年七月三一日付遊飲税課税及び納付調査書、同年九月一二日付手形借入調査書、同日付(株)武藤商店仕入及び支払額調査書、同月三〇日付損益計算書科目組替内訳書、同年一月一八日付調査報告書、同年九月三〇日付出演料調査書、同年六月一二日付預金出金の科目別内訳書、同年九月三〇日付谷本麗子勘定の調査書、同日付売上高算定計算書
一 収税官吏藤田貞次郎作成の同年六月一二日付銀行調査書(表紙に記録第一八一号と付記ある分)及び昭和四一年九月二七日付検査てん末書
一 収税官吏荒井啓亘、同斉藤勝爾作成の各検査てん末書
一 若色昌男、矢作建二、粂原牧造、本間勇、大竹常雄、木村順一、岡田一家、岡本直、谷亀弘明、小松六郎、堀合長次、井上秀雄、西山栄喜、斉藤辰治郎、小田みせ、宝谷茂、立沢成孝、片岡鎌二、朝生満芳、鏑木恵喜、三浦浩、福田四郎、町田ます、加藤一郎、市川国夫、佐々木昭平作成の各「取引内容照会に対する回答」と題する書面
一 井上秀雄作成の「有限会社クラブ・ビーエンドビーとの取引について」と題する書面
一 山崎武男作成の上申書
一 谷本伸一作成の嘆願書
一 宗美良子、白田清、森田怜子、山口武彦に対する収税官吏の各質問てん末書
一 登記官作成の昭和四二年一一月一三日付商業登記簿謄本
一 押収してあるレジ日報二枚(昭和五一年押第一〇七号の一の1、2)、雑収入金帳一冊(同号の二)、御会計書二袋(同号の三、五)、未収入金帳一冊(同号の四)、売上帳四綴(同号の六の1、2、七、一〇)、未収台帳三綴(同号八の1、2、3)、普通預金元帳四一枚(同号の九)、法人税確定申告書一通(同号の一一)、新宿店支払一覧表等一袋(同号の一二)、給料支払表一綴(同号の一三)、銀行勘定帳三冊(同号の一四、一五、一六)、六月分支払表等メモ(同号の一七)
判示第二の事実につき、
一 被告人池口に対する昭和四一年七月二七日付、昭和四二年二月二三日付、同月二七日付、同年五月一八日付、同月一九日付、同月三〇日付、同年六月一日付、同月五日付収税官吏の各質問てん末書
一 被告人池口の昭和四三年二月四日付、同月二二日付検察官に対する各供述調書
一 被告人池口作成の昭和四二年三月二日付、同月三日付(写)、同年五月三〇日付各供述書
一 被告人池口作成の同年三月三一日付、同年五月三〇日付各確認書
一 第一四回、第一五回公判調書中の証人岩佐忠男の供述部分及び同証人に対する裁判所の尋問調書
一 第四三回公判調書中の証人明石勉、第四四回公判調書中の証人斉藤昭、第四六回公判調書中の証人山村豊治、第四七回公判調書中の証人斉藤勝爾の各供述部分
一 収税官吏本山和博作成の同年六月一二日付横浜店各年分末未収金調査書
一 収税官吏明石勉、同内藤修治(二通)、同内藤修治外二名(二通)、同岩佐忠男、同岩佐忠男外一名、山村豊治(九通)、同山野茂作成の各調査てん末書
一 収税官吏藤田貞次郎作成の同年六月一二日付銀行調査書(表紙に普通預金元帳写と付記ある分)
一 奥野弥一、赤津熙、矢野栄一、山下徳次郎、山崎武男作成の各上申書
一 福山稔子、峯岸正、三宅接子、佐伯アキ子、田中源太郎、関口重一、藤岡良彰、後谷侑吾、大西博之、浜田一男、林幸信、根田武治、槌野信雄、服部平吾作成の各確認書
一 山口武彦、水谷美砂子、山口多賀司、谷本隆三(二通)に対する収税官吏の各質問てん末書
一 谷川広美(二通)、藤岡良彰、臼杵一郎、木村伸好作成の各供述書
一 立沢成孝、牧野寿久作成の各回答書
一 押収してある会員名簿一綴(昭和四七年押第二三四号の一)、支払手形控五通(同号の二)、売掛帳一綴(同号の三)、元帳一綴(同号の六)、振替伝票七綴(同号の七)、横浜関係書類綴二綴(同号の八、九)
(確定裁判)
被告人池口麗子は、昭和五二年一一月一四日大阪地方裁判所で公職選挙法違反罪により懲役二年(四年間執行猶予)に処せられ、右裁判は昭和五四年七月八日確定したものであって、この事実は検察事務官作成の前科調書によって認める。
(法令の適用)
一 被告人有限会社クラブ・ビーエンドビーについて
昭和四〇年法律三四号附則一九条により改正前の法人税法(昭和二二年法律二八号)四八条一項、五一条一項(判示第一の一の所為)
法人税法(昭和四〇年法律三四号)一五九条一項、一六四条一項(判示第一の二の所為)
刑法四五条前段、四八条二項、刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条
二 被告人池口麗子について
昭和四〇年法律三四号附則一九条により改正前の法人税法(昭和二二年法律二八号)四八条一項(判示第一の一の所為)
法人税法(昭和四〇年法律三四号)一五九条一項(判示第一の二の所為)
昭和四〇年法律三三号附則三五条により改正前の所得税法(昭和二二年法律二七号)六九条一項(判示第二の一の所為)
所得税法(昭和四〇年法律三三号)二三八条一項(判示第二の二の所為)
右各罰金刑選択、刑法四五条前段、後段、五〇条、四八条二項、一八条、刑事訴訟法一八一条一項本文(連帯負担分につきさらに同法一八二条)
(量刑の理由)
被告人池口の本件法人税法違反、所得税法違反両事件の犯則所得額合計は、三七、六一八、五六八円、逋脱税額合計は一三、八七八、二一〇円と多額であるうえ、同被告人は法人、個人のいずれもかなりの所得があることを知りながら、判示各年度につき、法人税に関しては所轄税務署長に対しそれぞれ欠損の申告をなし、又所得税に関しては全く申告をなさず、逋脱率はいずれも一〇〇パーセントであること、同被告人の本件犯行の動機は、法人税、所得税とも自己の事業拡張資金や資金繰り、諸々の交際費に充てるがためであって特段酌量すべき点はなく、犯行の態様も法人税については同被告人が被告人有限会社クラブ・ビーエンドビー(以下被告会社という。)の経理担当者に指示して、毎日の売上げを表勘定と裏勘定に区分して裏勘定分を仮名預金口座に入金して秘匿しその大部分を同被告人のもとに送金させていたものであり、又所得税については同被告人が大阪、横浜において経営する多数のバー、クラブ等の営業名義を殆んどその従業員ら他人名義にして同被告人の営業でないように仮装し、且つその売上金の一部を各店別の仮名預金口座に分散入金して秘匿するなど計画的で悪質であること、さらに同被告人は本件犯行後、前記のとおり公職選挙法違反の罪を重ね、同罪により懲役二年(四年間執行猶予)に処せられており、その他同被告人には風俗営業等取締法違反罪により罰金刑に処せられた前科が四回あってこれらは同被告人の遵法精神の欠如を窺わせるものであること、以上の諸点のみからすると同被告人の責任はまことに重大であり、同被告人に対し検察官の求刑のとおり懲役刑を選択するのが相当であると思われる。
しかしながら他方、被告人池口には次に述べるような有利な情状もまた認められるところであり、これらの情状をも併せ考えると、当裁判所は結局同被告人に対し主文掲記の罰金刑をもって処断するのを相当と考えるものである。すなわち、(1)本件は昭和四三年三月六日に起訴されてより本判決に至るまで実に一二年もの長期間の審理を要し、その間に七〇回の公判(他に一二回の準備手続)を重ねたのであるが、このように訴訟が長期化し、遅延した原因としては、裁判所の期日指定や訴訟指揮の不適切さがあったことも考えられ、又被告会社の代表者あるいは被告人池口の不出頭による公判期日の再々の変更や延期あるいは審理途中での弁護人の交替などもその一因として指摘することができるのであるが、これに加えるに、検察官の本件についての立証方針自体にも大きな問題があったというべきである。すなわち、検察官は、本件法人税法違反、所得税法違反の両事件とも、当初各所得金額の確定をいわゆる損益計算法(P/L)によって立証するとしながら、審理の結果、本件所得税法違反事件についてはこれに伴なう証拠が不十分であったところから、同事件について最終的にはいわゆる財産増減法(B/S)による立証に変更せざるをえなかったのであるが、このような検察官の立証方針の不適切さ、混乱が、本件の争点をいたずらに多くし事件を複雑困難にして審理を長期化させることにつながったことは明らかであり、この点は量刑上も以下に述べる諸点と相埃って十分しんしやくする必要があると考えられること、(2)本件の逋脱税総額は前述したとおり一三、八七八、二一〇円であるが、犯行当時より現在までの貨幣価値の変動を考慮に入れても、従来の量刑例からすると、右脱税額自体において、他事件との均衡上罰金刑の選択を全く許さない程高額のものであるとは必ずしもいえないこと、(3)本件各年度の所得税については更正決定のとおり本税、延滞税、重加算税等は全額納付されており、同じく法人税についても本税、重加算税は全額納付済みであり、未納になっていた延滞税については被告人池口がすでに被告会社に代って納付措置を講じ、近く完全に納付される見込みであること、(4)被告人池口は、昭和四五年に被告会社を解散したが、一方本件後に新会社を設立して従来東京、大阪、横浜に分散していた各店舗を東京に一本化し、その後は同都内の新宿、赤坂、六本木などに八店舗を設けて飲食店事業を継続し相当な業績をあげているが、本件後は税理士の指導の下に正しい経理処理を行ない、納税義務も完全に履行していること、(5)被告人池口自身現在本件犯行を深く反省しており、二度と再犯をしない決意であること、以上の諸点ことに本件訴訟が前述したように同被告人の責めにのみ帰せられない事情によって著しく遷延したものであることをしんしやくすると、被告人池口、弁護人が強く希望するように、本件については同被告人に対し罰金刑を選択することも必ずしも不当な量刑とはいいがたく、ただ前記の同被告人に不利な情状を勘案すると、検察官が同被告人に対し併科刑として求刑する罰金額(二〇〇万円)のみでは低きに失するので、通例の同種事案に関する罰金額からするとかなり高率の主文掲記の罰金刑を科するのを相当と考えるものである。
よって主文のとおり判決する。
(裁判官 森下康弘)